「カフアちゃーん」
互いに必要最低限の情報交換をしながら武とカフアが学校の正門まで来た時、正面から手を振りながら一人の少女が駆け寄ってきた。
ゆるやかなウェーブがかったシャーベットピンクの髪が風にふわふわと踊りぺリドットの瞳が優しい印象を持たせる少女だ。
「あの子がさっき話したセラードよ」
小声でささやく中身は武のカフアに中身はカフアの武が小さく頷く。
「お、おはようセラード」
武は上ずりそうになる声を抑えて出来るだけカフアっぽく見えるようセラードに挨拶を返した。
「うん、おはよー。あっカフアちゃん、もしかしてそのお隣の男の子は今日からうちの学校に入学する予定の武くん?」
「は、初めまして。東茶屋 武です」
カフアも武になりきって必死にそう答える。
「初めましてー。カフアちゃんのお友達のセラード・クリスチアーノ・イザベラです。よろしくね」
にっこりと笑いかける相手はよく見知った友達なのだが、今は外見が武である以上、出来るだけ不自然に見えないようにしなければならない。
武の中身のカフアは初対面風を装いながらぺこりと小さく頭を下げると言葉を続けた。
「カフアから話は聞いてるよ。確かクラスも一緒だったよね?」
「そうなの。ちゃんと覚えててくれたんだー嬉しいなー」
本当に嬉しそうに顔をほころばせるセラードの天真爛漫な笑みはどこか人をひきつける魅力があって、二人のやり取りを隣で見ていた、カフアの中身の武も思わず見惚れてしまいそうになる。

と、その時、また新たな声がセラードの後ろから掛かった。
「セラード、早く教室行かないと遅刻」
一見とげとげしい口調だけれど、友人を心配しているのであろう事はなんとなく分かる言葉。
カフアの姿をした武が振り返るとそこには漆黒の髪の少女が立っていた。
肩に掛かる髪は無造作に跳ね、風に自由に遊ばれるままだが、艶やかで深いエメラルドの瞳ととても相性が良く見える。
4月とは言えまだ春先の寒さが残る季節。しかしカフアが身につけている制服は白いブラウスにスカート。
カフアやセラードが着ているブレザーはなく、ボタンを緩めたブラウスの首元にはキラリと小さなチョーカーが光って見えた。
“この子もカフアの友達なのか?”
武の疑問を感じ取ったようにカフアがすかさずさりげないフォローを入れる。
「スワーナ…さん!…っでした、よね?この前カフアの事をバンドのメンバーに誘った…っていう」
とっさに武の格好をしたままのカフアがそう口を開いた。
“なるほど、スワーナって名前なんだな。”
この少女については何も情報を得ていなかった武はカフアのその言葉に少女の名前を知りホッと胸をなでおろしたのだが、スワーナと呼ばれた少女は分かりやすくいぶかしげな視線をカフアに向けている。
それもそうだろう。武とカフアが入れ替わっている事などもちろん知らないのだから初対面の男子にそこまで知られていて、しかも初対面でいきなりそう口に出されたら誰だって警戒くらいはする。
この少女の反応もそう考えれば当たり前なのだが、まるで不審者を見るような冷ややかな視線を送られる自分を別の視点から見るのは正直心にグサリとくるものある。
せめてカフアの外見をした自分がうまく仲介に入って自分にかけられている変な誤解を解きたい。
うまくフォロー出来るような言葉はないか?と捜している武に無自覚ながらも助け舟を出してくれたのはセラードだった。
「武くん、その話もカフアちゃんから聞いてたんだねー。彼女もね、私のお友達なんだよー。それでね、カフアちゃんがとーっても歌がうまいから、スーリーが自分のバンドに入らないかってこの前スカウトしたんだよー。ねー」
セラードの視線がスワーナからカフアの外見をした武へと移される。
ここまでやってもらえれば後は何とかいけそうだ。今はカフアの体の中にいる武はセラードの言葉に大きく頷いた。
「そ、そうなの。えと、スーリーさんだったよね。この前は声かけてくれてありがとう」
『スーリーさん』という言葉にぴくりとスーリーの肩が跳ね、頬が淡くピンクに染まる。
先ほどのセラードへの言葉といい、どうやら日ごろから口数は少ないが、その分表情に感情が出やすいタイプのようだ。
そして今の反応は決して嫌がっているようではない。
「そいうえばカフアちゃん、バンドへの加入はお返事保留って言ってたけどもう決めたー?」
セラードがこくんと首をかしげてカフアの姿をした武へと尋ねる。
と同時にスワーナの真剣なまなざしもカフアの姿をした武へと向けられた。
「えーっと…」
武はカフアへと視線を飛ばしてみるが皆の距離が近すぎてうまく話を合わせる事が出来ない。ここはどうやら自分で乗り切るしかなさそうだ。
「…その、ごめんなさい。まだ迷ってて…」
ちらりと武の中のカフアに視線を送ればほっとしたような自分の顔が映りこむ。中身のカフアも武の答えにひとまずは安心したようだった。
「うん、答えは急がないから…」
スワーナの方も今はカフアの代わりに仮の返事を返した武の反応にそう答えたがどこか寂しそうに見えるのはよっぽどバンドを愛し、そこにカフアのボーカルとしての素質を感じているのだろう。このままぷいっと何もないまま別れるのはどこか悪い気もする。
「あーでもあの、よかったらスーリーさんの事、スーリーって呼んでもいい?」
勝手な行動だとは思ったがこれくらいならカフアも許してくれるだろう。
中身は武なのだが、そうとは知らないスワーナはカフアの答えにぱっと表情を明るくした。
やはりカフアをボーカルに誘う位だから友達としてももっと近づきたいという思いもあったようだ。
「うん、好きにして」
どこか控えめでクールビューティーという印象を受けるスワーナだが、こうして照れ隠しのような顔を浮かべる姿は歳相応の普通の女の子だ。
やや返事がぶっきらぼうなのは素直に自分の気持ちを表現するのが苦手だからだろう。
と、絆が少しだけ深まった4人の同級生の耳に予鈴を知らせる鐘の音が響いた。
「時間!」
スワーナの言葉にカフアの姿をした武が頷くと同時に4人は目の前に迫った校舎に猛ダッシュで駆け出した。


ToBeContinued…
 

original author 竹之下ユリス

Novelist is nakota's

illustration by 竹之下ユリス